最近発売された創元推理文庫「ひとめあなたに…」。
女子大生の圭子は最愛の恋人から突然の別れを告げられる。自分は癌で余命いくばくもないのだと。茫然自失する圭子の耳にさらにこんな報道が―“地球に隕石が激突する。人類に逃げ延びる道はない”。彼女は決意した。もう一度だけ彼に会いに行こう。練馬から鎌倉をめざして徒歩で旅に出た彼女が遭遇する4つの物語。
人類が滅亡するからといって政府や科学者は一切出てきません。それどころか科学的根拠や考察は全くナシ。あくまで物語の視点は主人公の旅から離れません。それなのにこの物語の持つ終末感や悲壮感は相当にハード。”4つの物語”に登場するそれぞれのヒロインたちは”1週間後の滅亡”という区切りがあえるからこその狂気に犯されているはずなのに、今、幸せなはずの私たちの心の狂気となんら変わりません。その絶望感、虚無感。”人間を描く”ことが物語の本質なのだとすれば、この作品は見事に”物語”として成立しています。もちろん、人間には絶望しかないわけではありません。自分が死ぬことがわかっているのに、歩いて恋人に会いに行くことを決めた主人公。その前向きさ、ひたむきさは4人の狂気と全くの正反対。その対比が人間という存在の複雑さ、怖さ、そして素晴らしさを明確にあらわしています。そしてラスト。たどりついた鎌倉での二人の会話と、ひとつひとつのしぐさ、行動。そこにあるのは人間本来の素晴らしい輝き。今までの悲壮な旅の後に来るからこそ感じるこの感動。これぞ恋愛小説!!という感動の涙があなたを待ちうけます。
”破滅SF”というよりも恋愛小説として、女性の方にぜひ読んでいただきたい佳作です。
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